明治大学文学部で哲学専攻を新設
志野好伸
日本 明治大学文学部心理社会学科哲学専攻専任教授
2018年4月に、明治大学文学部に14番目の専攻として、哲学専攻が発足する。明治大学は、1881年創設の明治法律学校を前身とする長い歴史のある日本の私立大学である。1904年には文学部が設置されるが、これまで哲学を担当する教員はいても、学生が体系的に哲学を学ぶ課程は存在していなかった。これは百年以上の伝統ある規模の大きい私立大学としては珍しいことである。設置されていなかった理由の一つには、谷川徹三や小林秀雄や唐木順三が教鞭をとっていた文芸科(現在は文芸メディア専攻)が、哲学をも包含していたことが挙げられる。
また、文部科学省が2015年に国立大学法人に対し、人文社会科学の学部・大学院の規模縮小や統廃合などを要請する案を示したことに象徴されるように、実務的な教育・研究以外は、風当たりが強い状況がある中で、今回の哲学専攻の新設は、周囲から稀有な出来事として受けとめられている。
では、なぜ今、哲学専攻が新たに設置されるに至ったのか。一つには、成長至上主義の時代から、持続可能で多様な生き方を認め合う時代へ価値観が大きく変化し、また、生殖医療や情報管理技術の発達によって、人間の生のあり方が問いなおされているという社会的背景がある。それに伴い、哲学が果たすべき社会的役割にあらためて注目が集まっているからである。また、哲学を学ぶ方法の変化も理由の一つに挙げられる。世界的な流行を背景に、日本
哲学プラクティスの授業風景
左から、池田、合田、垣内、志野
でも近年各地で哲学 カフェが開催され、小中高などでも哲学対話を採り入れた授業が数多く実践されるようになっている。こうした哲学プラクティスの方法をカリキュラムの一環に採り入れた教育を明治大学は行おうとしている。哲学専攻が臨床心理学専攻および現代社会学専攻とともに、心理社会学科の中の一専攻に位置づけられているのも、 以上のような時代の要請に応え
るためである。
専任教員は、現象学を研究対象とする池田喬、朱子学を研究対象とする垣内景子、ユダヤ思想史を研究対象とする合田正人、近代初期の哲学と科学を研究対象とする坂本邦暢、近代中国哲学を研究対象とする志野好伸の5名である。5名のうち、中国思想を主な研究領域とする教員が2名もいるのが特徴で、西洋一辺倒ではなく、日本を含めたアジアの思想を視野に入れた哲学研究・哲学教育を推進できるような体制になっている。
入学定員は1学年あたり45名で、2月に行われた入学試験では、明治大学文学部の他専攻と同程度の志願者を集め、高校生にも広く認知されたことが裏付けられた。
初年度には、4月14日に発足記念シンポジウムを開催するほか、広州の中山大学や台北の政治大学との共催ワークショップ、Judith Butler氏を招聘した講演会などを予定しており、アジアの哲学研究拠点として積極的な役割を担いたいと考えている。(文責:志野好伸)